みなさんこんにちは

わいは森見登美彦さんが大好きです。
特に四畳半神話大系と、夜は短し歩けよ乙女が好き。
あの独特な文体が好きでたまらない。
作者本人の言葉を借りて言えば、

わざと重厚を装ってホラを吹き、相手のツッコミを待つという私の男子高校生的な語り

四畳半神話大系公式読本
が、とてもクセがあって好きです。
噛めば噛むほど美味しいんだけど、臭すぎてなかなか食べる気になれないスルメイカ的な、クセ。

森見登美彦さんの作品には一冊毎に多くの名言が含まれており、読む際にはメモ帳代わりの携帯が手放せない。
その数の多さから携帯にメモをとることがめんどくさくなり、蛍光ペンで直接文字に蛍光塗料を塗りたくり、読後にはマーカーを引いたページを全て破り天井に貼り付けた後電気を消し、ほら名言だけで満点の星空ができるんだよ。と言えるほどである。

そんな森見登美彦さんのデビュー作であり、日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品、
太陽の塔 の感想です。

注意

ネタバレ含みます


太陽の塔 (新潮文庫)

あらすじ

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

失恋した男の話なんだけれども、これまた一癖も二癖もある。
なんと、この主人公 元カノの日常を記録して研究している。
のだ。四百字詰め原稿用紙に換算して二百四十枚の大論文になっているらしい。
誰がどう聞いてもあなたそれはやばいよ。と言いたくなる。

そんな出だしある?

なにを好きこのんで、こんな男汁溢れる手記を熟読する必要があろう。読了したあかつきには、必ずや体臭が人一倍濃くなっているはずである。

太陽の塔
開始早々9ページ目の主人公の発言である。
よっしゃこれから読んでくぞ、と勢い込んでいる読者の足をいきなり躓かせに来る。
誰が好き好んで体臭が臭くなる可能性がる書物を読もうとするのか。
しかし、この文章によってむしろぐいっと引き込まれた。
読み終わって体臭が人一倍臭くなる 本なんて聞いたことがない。
なにそれ??ねえ??どんな中身なの???
興味がそそられまくられたことは言うまでもない。

主人公の得体の知れない自信が面白い

元カノ(以下水尾さん)のマンションに張り込み、帰宅を待っている主人公が、男にストーカーをやめろ。 といわれる場面があるのですが、その男の顔を確認したときの主人公の胸中がこちら。

彼の顔から得られる情報を総合的に検討した結果、私は彼の人間としての器を少なくとも私の十分の一以下と推定した。これは無視して立ち去ってしかるべき、圧倒的な器の差と言わねばならない。

太陽の塔

いや、何様やねん。

なぜかやたら上目線な感じがやばい。明らかにおかしいのはお前だぞ、という突っ込みを禁じ得ない。
しかし、さらに面白いのがこの主人公を注意した男もストーカーなのである。
いやどんな状況やねん!!
一応彼らのために弁護しておくと、彼らは水尾さんに危害を加えるような危険なストーカーではない。(危険じゃないストーカーというのが存在するかは分からない)

あくまで主人公は研究のために水尾さんを着けており、
この注意した男は水尾さんの映画を撮りたくて彼女を着けているのだ。
なんだこいつら。
こんな感じでときおり見せる主人公の自信満々さ。
独特な語り口と相まって、思慮深く聡明な学生かと一瞬思いそうになるが、実際目撃したらすごい視線をキョロキョロさせてあたりを見回してそうな感じがいい。
お前本当は内弁慶ちゃうんか??
と突っ込みたくなる。愛すべきキャラクターである。

男臭い魅力的な仲間たち

Xmasを忌み嫌うような主人公であるが、その周囲の人間もとても男臭い。
森見登美彦さんの筆力によって生み出されたキャラクターは魂を与えられて、しまいには有り余るエネルギーから臭いを感じる。
文章って臭いを発するんだ... と思うこと請け合いである。
男友達は3人いる。

飾磨大輝

男たちの中でも他の追随を許さず圧倒的に前を走っている人間である飾磨大輝は、好みの女性の居場所を網羅した地図を常に頭の中に持ち合わせている。
あまりに熱すぎる視線により、特に好みの女性からは警戒されている。

高藪智尚

全長2mに及ぶ巨体をもち、顔中に濃いヒゲを生やしているが、実は夢見る乙女のような魂を持つ高藪智尚。

井戸浩平

普段あまり喋らないが、その心の中では周囲に対しての怨念を溜めており、たまにそれを漏らしたかと思えば、もらした事による自己嫌悪に陥りまた落ち込んでいくという難儀な性格を持つ井戸浩平。

など、魅力的(?)な友人たちとの会話はとても面白いので、是非読んで彼らの生態を確認してほしい。

なんだかんだで青春物語 な気がする

その時は最悪だあ。と思っていても、後日振り返ってみるとなんだかんだ楽しかったよな。
と美談のようになっていることはよくある。
どこがどう青春なんだ。と問われると、ここがこうなので青春ぽさを感じますね。と具体的には答えられないけれど、主人公が住んでいる四畳半の狭い家で男四人が集まりあーだこーだと話をしている場面や、水尾さんを追いかけて苦悩する主人公はその日その日をしっかりと生きており、強い感情の動きがある日々からはやはり青春ぽさを感じる。
きっと皆さんにも、
楽しかったかと聞かれるとなんとも言えないし、なんであんなことをしたのかはよくわからないけどなんか記憶に残っている ような出来事があるのではないかと思う。
そういったよくわかんないけど記憶に残っている変な事は、振り返ってみるとなんとなく楽しかったと感じるのではないだろうか。
よく分からない事に打ち込むという行為には青春のイデアが影を落としているのかもしれない。

読後、体臭は臭くなったのか?

臭くなっているかもしれない。
しかし、臭いものでも取り入れてしまうと自分では最早その臭いを感じることが出来なくなってしまうものである。
そのため、最初はあたかも臭いを発しているように感じたこの本も、今となってはその臭いを感じることができない。
初めやばい奴らだと思いながら読んでいたが、気付いたらズブズブにハマってしまった結果、自分もその臭いの中に取り込まれたためである。
文体がであるという書き方になっているのもこの本の影響に寄るものであり、彼らの影響を受けている事の一つの証明になる。
手放しでおすすめはできないクセのある作品だが是非読んでみて欲しい。

作中によく出てくるので理解しておきたい単語

【法界悋気(ほうかいりんき)】

自分に無関係な人のことに嫉妬しっとすること。また、他人の恋をねたむこと。おかやき。
▽「法界」は自分とは何の関係もない他人の意。「悋気」は嫉妬心。
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太陽の塔 (新潮文庫)

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